「今日、森山と何話ししていたんですか?」


少しづつ、明るい時間も長くなって、完全下校の七時の空はまだ、オレンジ色の光だった。


遊馬くんの部活終わりを待って
一緒に駅に向かう途中だった。

「えっ?」
「部活始まる前、僕のあとに、森山が来たでしょう?」

あっ。
あの時のこと。

言われて思い出した。
そう、森山くんと話をした。

見られていたんだ。




<<なんで悲しそうな顔してるの?>>

<<田中さんと遊馬がいる時、いつもそんな顔してる>>


森山くんに言われたことを思い出す。


田中さんが遊馬くんと話しているとき、
田中さんが遊馬くんの隣にいる姿を見たとき、
田中さんと遊馬くんの二人が並ぶ姿を見たとき、
自分のなかで、真っ黒なものがどんどん大きくなって
苦しくなって息ができなくなる。

そんな時、私は悲しそうな顔をしていると森本くんは思っていたんだ。

あまり、意識なんてしたことなかったな。

ううん、意識しないようにしていたのかも。


遊馬くんに、伝えるほどでもない、よね?

田中さんとのことで私が複雑な気持ち抱いていること、遊馬くんに伝わって、遊馬くんに余計な心配かけたくない。

田中さんは陸上部のマネージャー。

遊馬くんだけじゃない、陸上部のみんなを支えている大切な人なんだから。




「あっ、うーん、えっと」
うまく違う話が見つからなくてしどろもどろになっている私を怪訝そうに見る。

心配かけちゃう。
何か言わなきゃ。
何か。

「な、なんもないよ。挨拶してくれた、、だけ。」

とっさに出た言い訳に、
一瞬、遊馬くんが考え込んで

ほんとに?

とわたしの顔を覗き込んで確かめてきた。

遊馬くん、勘が鋭いから、ほんと、困る。
心臓がドキドキして、余計慌てちゃう。

やましいことはないんだけど、なんか、目が合わせられない。

遊馬くんの真っ直ぐな目が痛い。


「うん、ほんとほんと!それより、今度の日曜だよね?大会!応援に行くね!」
「ありがとう。」

無理矢理話題転換。

遊馬くんは腑に落ちない顔をしていたけど、話を合わせてくれた。

危ない、アブナイ。
ふぅと遊馬君にわからないように胸をなでおろした。





森山くん・・森山康介くんは、遊馬くんと中学から仲が良くて、ご両親同士も知り合いで家族ぐるみでお付き合いのある、いわゆる幼馴染。

遊馬くんとは正反対で、茶髪で、長めの髪の毛はすこしパーマを当てているのか、軽く跳ねている。
同じ陸上部で短距離走選手。
外見もさわやかスポーツマンって感じでモテる。
記録も優秀な成績を残していて
去年の大会前は期待の新星というコーナーでテレビ取材を受けていた。


森山くんと同じクラスになったことはないけれど
遊馬くんと一緒にいる男友達の一人だから、クラスでよく、話ししているのをみかける。


時々、こうして遊馬くんを待っている時、すこし声をかけてくれることがあるけれど、いつも怖い顔しているから一言二言しか話しない。


私には冷たいけれど、ほかの人には優しいし頼れるし行動力もあるから目立つ人。
なにより遊馬くんと一緒だとさらに・・・。


森山くんが前に出て行動するなら、後ろを守るのが遊馬くんっていう感じ。

二人の持つ関係性とか、雰囲気とか羨ましいなと思う。



「ゆらら」

私の握っている手をさらにぎゅっと強く握って歩みを止める。


「うん?」
遊馬くんを
斜め下から見上げる。

目と目があって、微笑んだ。

こういう、優しい目が好き。

好き。
好き。
大好き。


「抱きしめてもいいですか?」

「、、、、うん」

返事とともに、遊馬くんの胸に体を引き寄せられる。
わたしも遊馬くんの背中に腕を回してぎゅっとする。
遊馬くんの力が強くなって、わたしの髪の毛に顔を埋めた。