眼鏡をクイッと軽く押し上げ、書類に目を落として頷いている岡崎専務に胸を撫で下ろしていると、安西部長が“続けろ”という視線を私に向けた。

安西部長が出してくれた助け舟、無駄にするわけにはいかない。

今回の視察の報告の最後にひとことふたこと付け加え、岡崎専務からの思わぬ質問というハプニングはあったものの、ようやく無事に報告は終わった――。

会議終了後、出席していた社員たちがぞろぞろと会議室を出て行くのを横目に、脱力したまま椅子に座っていると、ポンと頭に手を載せられ顔をあげる。

「安西部長……」

「お疲れさん」

にこやかに笑う彼の笑顔。それに私は心の底から安堵して、今にも机に突っ伏してしまいそうだった。

「あの、先ほどはありがとうございました。助かりました」

「いきなり質問してきて突っついてくるのは岡崎専務のクセみたいなもんだ。俺も昔は散々突っ込まれて……って俺の話はいいか、嫌な予感がして急ぎで用意した資料がビンゴでよかったな」

安西部長が二ッと口の端をあげた。気持ちに余裕の出てきた私もつられて頬を緩める。

「ノーマークだったことを質問されて、もうどうしようかと内心ヒヤヒヤしてました。本当にありがとうございました。安西部長のおかげです」

椅子から立ち上がってペコリと頭を下げると、安西部長はほんの少し照れくさそうに小さく笑った。