今まで通いつめていた赤提灯は、寺川さんの住むマンションからは距離があったし、社長の行きつけでもあったから除外した。


せっかくだから初めて入る店を選んだ。


ちょっと廃れた雰囲気を醸し出す暖簾をくぐり、引き戸を開ける。


私の好きな賑わいと、威勢のいい大将の声。

おかみさんらしき人に案内されてカウンターへ座った。


ぐるりと店内に貼り出されてるメニューを見る。

やっぱビールか、でもホッピーか、
おしぼりを手に悩んでると、ひどく聞き慣れた声が届く。


「佐野か?」

周りのガヤガヤした声を遮るように貫かれる。

あー、、、
振り向かなくてもわかる。

ガタッと椅子を引く音が響いたと同時に感じる気配。


「、、、社長」