「父さん勘違いしてたんだ。医者の夢あきらめて会社を継ぐ自分は、人生を犠牲にしたって。そんな風に思ってた。だから社長として会社に入ってからも風当りが強くて、なんで自分がこんな目にあわないとならないんだって思ってた。自分は社員のために犠牲になってやったのにって。」
父の何も繕うことのことのない姿に永遠はその背中から目が離せなかった。
「でも勘違いだったって気づかせてくれたのは樹、お前の母さんだった。父さんは自分で決めたんだ。自分の人生を犠牲にしたんじゃなくて自分で選んだんだ。」
父は振り向き永遠を見る。
「お前も自分の道は自分で選べ。自分の人生は自分で選択しろ。」
父の言葉にはたくさんの意味を含む。
永遠は生まれながら大きな会社の跡継ぎとして周囲から期待されていた。でも両親からは一度も会社のことは言われていない。父に医学書を借りるときも快く貸してくれた。
「父さんたちはお前が自分で選択できるように、道を広げる手助けはしてきたつもりだ。その選択を応援できるように準備だってしてる。」
父は穏やかな目で永遠を見つめた。