すると、はのんちゃんが冷静さを取り戻すみたいにひとつ大きく息を吐き、それから俺を見上げた。
長い睫毛に縁取られた大きな瞳が、叱るようにまっすぐに俺を見据える。
「まったく、やっぱりズレてるんだから」
「え?」
「こういうのは、片方からじゃだめなの。お互いじゃなきゃ」
「お互い……?」
また失敗したかと落ち込みかけたその時。
まるで俺の心ごと掬い上げるみたいにはのんちゃんが俺の右手を取った。
「来て」
なにも言わせないまま、はのんちゃんが俺の手を引いて駆けだす。
そんなふうに突然手を引かれ、けれど驚いている間もなく足を動かしていたのは、当に俺のすべてを君に委ねているから。
人の波をかき分けて走るはのんちゃん。
俺よりずっと小さな背中なのに、君の背中はそこに大きな翼が生えているかのように頼もしい。
きっと君は知らないだろうけど。


