するとその時、はのんちゃんがなにかに気づいたように「あ!」と弾んだ声をあげて、満開の笑顔で俺を振り返った。
「見て、うさぎが風船配ってる!」
彼女が指さして方を視線で辿れば、前方の通路で、巨大なピンクのうさぎの着ぐるみが群がる子どもたちに風船を配っていた。
「うさぎがサンタの格好してるの、なんかシュール」
そう言いながら、隣ではのんちゃんがくすくす笑っている。
学校を離れたはのんちゃんは、よく笑う。
変な名前のお店の看板を見つけて、駅のホームで流れた好きな曲を聞いて、はのんちゃんはそれを全部、笑顔をぱっと咲かせて俺に教えてくれる。
そんなはのんちゃんが学校ではうまく笑えない理由を、俺は知っている。
はのんちゃんの笑顔を守りたいのに、エンプロイドの自分にはなにもしてあげられないのが、ひどくもどかしい。
心臓のあたりが、ぎゅっときつく絞り上げられたように痛んだ。


