あの時、私はただ純粋にはるくんのことが好きだった。

だからこそ、裏切られた気がしていた。


でも思えば、はるくんは――ユキの本質は、あの時となにも変わらないのだ。


裏切っているのは、私の方……。


頭では分かっているけれど、やっぱりすべてを受け止めきれるほど私は強くない。


どうしたらいいの、はるくん……。


「……はのんちゃん」


その顔が頭に浮かんだのと重なるタイミングで静寂を打ち破った声に、私は心臓を揺らして顔をあげた。


声がした方を見れば、教室の入り口にユキが立っていた。


なぜか肩で大きく息をするユキは、私の机まで歩いてきて、さっきと同じように片膝を立ててしゃがみ込んだ。

そして私を見上げ、なにかを差し出してくる。


「これ」


ユキが持っていたのは、蓋のついた紙コップだった。

プラスチックの蓋の飲み口の部分から出る湯気が、一本の線となってゆらゆら揺れている。


「な、に……」

「ホットココア。学校の近くに露店が出てて、はのんちゃんと一緒に飲みたいなって思ってたんだ」