多分、人目を気にして、教室から人がいなくなるのを待っていたのだろう。

けれど、最早そんなこと、どうでもよかった。


「そういえば、はのんちゃんに見せたい子犬の動画見つけたんだ」

「……」


なにも知らない呑気な声が振ってくる。


今はそのすべてが、私の神経を逆撫でする。


……あんたのせいだ。全部、あんたのせい。


考えれば考えるほど、ふつふつと怒りが込み上げてきて――。


「はのんちゃん?」


うつむいたままでいる様子を不審に思ったのだろう。

ユキが私の机の横にしゃがみ込み、私の名前を心配そうに呼んだ。


ユキの声が鼓膜を揺らした瞬間、それが最後の一押しとなってぷつんとなにかが切れた。


「もう……もう私に関わらないで……!」


そんな声とともに、私は机の下で握りしめていたグレーの手袋を、思い切り投げつけた。


ぱさりと音を立てて、ユキに当たった手袋が床に落ちる。


それまで黙っていた反動からか、顔を伏せたまま張りあげた自分の声がビリビリと頭に響いた。