「おはよ、舞香!」
駆け寄りながら元気よく挨拶したけれど、それはまるで当然のように受け流され、猫の目のようなアイラインを施した目で見上げられる。
余計な挨拶は要らないようだ。
形式的だとしても、なかったらなかったで大変なことになるのだけれど。
「あれ、持ってきてくれた?」
「うん……!」
答えながら、1秒でも惜しむように急いでスクールバックからビニールの袋に入った白い箱を取り出す。
取り出した瞬間、手に伝わる冷たさから、保冷剤がしっかり入っていたことに今更気づいて、ほんの少し胸の奥がちくりとした。
「はい、プレミアムチーズケーキ」
「やった〜。はのんの家のプレミアムチーズケーキ、めっちゃ好きなんだよね~。ありがと、はのん」
「全然!」
「やっぱ、持つべきものはケーキ屋の友達だわ」
当たり前のようにビニールの袋ごと受け取りながら、舞香が整った笑顔を向けてくる。
友達、そんな言葉に心が安堵した。
そのまわりに飾り付けられていた言葉なんて、もはや耳に届かない。


