どのくらい走っただろう。


暗闇をいくら切り裂いて進んでも、最寄り駅はなかなか見えてこない。


息を吸うたびに、新たな冷たい外気が肺に入ってくる。


……心臓が、痛い。


けれど、前へ前へと繰り出す足の勢いは止まらない。


やがて駅手前の河川敷までやってきて、その時ふと、数メートル向こうに川の方を向いて佇むはのんちゃんの姿を見つけた気がして足を止め――彼女が本物だと気づく。


「……はのんちゃん?」


砂利ばかりの足場を進みながら、荒い呼吸の合間に、そっと大切な名前を呼ぶ。

その声は風に乗って彼女に届き、視線をこちらへ導いた。


「え? どうして?」


暗闇の中でも、俺の姿を見つけるなり目を丸くするはのんちゃんの反応はよく分かった。