※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。







「ほらー。パシリくん、なんでお使いもできねぇんだよ」

「クロワッサン、売り切れてて……」

「いやいや、売り切れる前に購買行けよ。ほんっと、エンプロイドは使えねぇな」


水道の前の少し広がった空間で、数人の男子がひとりの男子を囲み、主犯であろう同じクラスのボス・大瀧が、吐き出すように罵倒の言葉をぶつけている。


……朝から嫌なものを見た。


学校に着くやいなや、通りすがりの廊下で繰り広げられるやりとりを目撃してしまい、私はうんざりした気持ちになった。


多くの生徒が行き交う中でこんな非道ないじめが黙殺されているのは、詰られている男子がアンドロイド――エンプロイドだからだ。


──時は20XX年。

数年前、人口現象に歯止めをかけるため政府が打ち出したのは、アンドロイドの生産だった。


employ(からっぽ)なアンドロイドという皮肉を込めて、〝エンプロイド〟と名付けられた彼等が大量生産されるようになったこの時代、今や人間社会の至るところにエンプロイドはいた。


エンプロイドは、人間と同じように年を取るロボットだ。

しかし、人間に逆らうことがないようコントロールされたエンプロイドは、いつしか人間よりも明確に下の身分になり、差別の対象となっていた。