電車を降りて15分ほど歩くと見えてくるはのんちゃんの家まで、彼女を送る。


いつも学校から帰ってくる頃にはすっかり暗くなっているから、明るい時間に別れるのは、なんだか不思議な感じだ。


「じゃあ、また月曜日」


そう言っていつものように立ち去ろうとした、その時。

踵を返した俺のコートの裾が、不意に後ろからくいと引っ張られた。


「ねえ」


引っ張られた反動と、俺を呼び止めるような声に反応して振り返ると、俺の視線から逃げるように長い睫毛を伏せたはのんちゃんがそこにいた。

やがて、躊躇いがちに赤い唇がゆっくり開く。


「ありがとう、ネックレス。私も大切にする。……さっき、ちゃんとお礼言えなかったから」

「はのんちゃん……」

「そ、それだけ。じゃあね」


――ああ、と胸がいっぱいになったその時には、反射的に手が伸び、はのんちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でていた。


「こちらこそありがとう。じゃあまた明日」


そう告げながら、早く君に会える明日が来ますようにと願わずにはいられない。


すると俺の手の下ではのんちゃんは、目元を優しく緩め、うんと穏やかにそう答えた。