「え?」

「もしよかったらなんだけど」


一瞬固まりかけた空気を緩ませるみたいに、自然と眉が下がって笑顔がもれ、保険みたいについそんな付け足しをしてしまう。すると。


「行こっか」


前を見つめて表情を崩さないまま、はのんちゃんが一言返してきた。

それはあまりにもあっさりした響きで、イエスなのかノーなのか、頭の中で判断するのに一瞬時間がかかった。


「……ほんと?」

「ほんと。まだだれとも約束してないし」


……あ、違う。

表情が一ミリも崩れていないように見えたけど、ほんの少し頬がピンク色に染まっていた。


「嬉しい……」


うっかり心の声がもれてしまったみたいにこぼれた俺の声は、人のざわめきでかき消され、はのんちゃんにまではきっと届かなかった。


だって、こんな楽しみなことが自分の未来に待っているなんて信じられない。

夢なら覚めてほしいけど、覚めてほしくない。