数日後の朝のことだった。
城内がバタバタしている。
騒がしさと侍女たちのヒソヒソとした噂話をする声で千は目が覚めた。
この日は何だか熱っぽいようなめまいがするようなお腹が痛いようなそんな感じでなかなか起きられなかったのだが、あまりの騒がしさに寝ていられなくなった。
侍女たちは千を見ると一様に目を伏せ足早に過ぎ去っていく。
「千姫さま」
振り向くと松が真っ青な顔をして立っている。
「どうしたの、ずいぶん騒がしいね」




「…秀頼さまのお世継ぎが産まれました…」




「!!!!!」


多喜は真っ青な顔をして泣き崩れた。
「な、何かの間違いですよ…」
松は何とか気を保ち、千姫の様子を窺う。

「…姫さま…お顔色が」
「…今日はちょっと気分が優れないの」
「そりゃそうですよ、こんなひどい報せを聞いたら…」
「あのね、2人とも、落ち着いて聞いて…」
千姫はゆっくりと2人を諭すように話す。
「実はこの間、秀頼くんから先に聞いたの…」

「えっ…!!!」
「何でそれを教えてくれなかったんですか!」
「いつ聞いたんですか!!」
2人は興奮して止まらない。
「こんなの裏切りじゃないですか!」
「秀頼様は何を考えてるんですか!」
「それを平気で姫様に言ってくるなんてサイテーじゃないですか!」
「信じられない!」
「…2人とも、落ち着いて…」
「落ち着いてなんていられるわけないじゃないですか!!」
「お江様にお知らせしなければ…!」
「…ダメ、ダメよ、多喜…
徳川家と戦争になっちゃう…」
「そのくらいの裏切り行為ですよ!!!」

「…お願い、落ち着いて…
本当、それが理由じゃないんだけど…
何か気分が悪くて……
痛たたたた……」
千姫は弱々しく言うと、お腹を抑えてうずくまってしまった。
「姫さま…!!!」