正月が終わりまた日常の生活が始まる。
秀頼には相変わらず会えない日々が続いていた。
「ちょっと気分が優れない」
秀頼は2月の秀吉の月命日の儀式を欠席した。
その後も政務室を覗いても秀頼は見当たらないし、客人が来ても欠席する事が続いた。
さすがに心配になる。

痘瘡(とうそう)らしいです」
お雪が情報を掴んできた。

痘瘡…!!!

痘瘡とは古くから世界中で流行っていた天然痘(てんねんとう)ウィルスが原因の感染症である。
最初は高熱が出たり手足の痺れなどの症状が現れた後に、水疱が現れそれが膿になって(かさぶた)になってようやく治癒する。
見た目もグロテスクな上、瘡に触れるだけでも罹患する厄介な病である。

体が弱い子供や老人はかなりの確率で亡くなった。
秀頼は健康な成人男性なので、きっと病に打ち勝ってくれるはずだ…!
皆はそう願い祈祷を行なっている。
天然痘は、顔に痘痕(あばた)が残るなど見た目に深刻な後遺症が残る事が多かったのでそれも心配されていた。
発症してから治癒するまで約1ヶ月を要する。

しかし秀頼が隔離されてから2ヶ月が経とうとしていた。
千姫は気が気ではなかった。

「秀頼くん大丈夫かな…」
「きっと大丈夫ですよ…!」
「お見舞いに行きたい」
「いけません!」
「だって、秀頼くん1人でかくりされてるんでしょう?
かわいそう…
苦しいのかな…
寂しいんじゃないかな…」
「みんなできちんとお世話しているはずですから大丈夫です、きっと!」
「一目だけでも会いたいよ!」
「伝染ったらどうするんですか!
いけません!!」