慶長13(1608)年、正月。
去年は結局ずっと秀頼とはほぼ会えず、会話がないまま一年を終えてしまった。
元日の早朝といえば、姫たちの部屋の近くの中庭に集まり羽根突き大会をするのが恒例となっていた。
しかし、結局秀頼も重成も姿を見せなかった。
千姫は松と2人で羽を打ち合う。
単調な打ち合いが続く。
「2人だと寂しいね」
「そうですね」
「もう、止める?」
「そうしましょうか…着替えもしないとですしね」
「私ね、毎年楽しみにしてたの」
「私だって同じですよ」
「最近さ、朝ごはんも寂しいじゃない?
みんないなくて…。
儀式の時は会えるけど、喋っちゃいけないし。
秀頼くん、すっごい素っ気ないし。
全然こっち見てくれないし。
成人して政務をやるようになるといきなりこんなに会えなくなるものなのかなあ?

たまに見かけても辛そうじゃない?
でも"大丈夫だから"って何も教えてくれないし…。
私なんかじゃ何の役にも立たないってことなのかしら…」
「姫さまは一生懸命秀頼さまをお支えしようと努力されてますよ。
きっと何か事情があるのだと思いますよ。
きっと時期が来たら解決しますよ。
元気出してください」
「ありがとう、松」

2人は中庭を後にして神社参拝の準備を始めた。