初夜は夫婦ともに寝ることとなっている。
秀頼の寝所に入り、挨拶をする。
「ふつつかものではありますが、よろしくおねがいします」
秀頼は苦笑いしながら言った。
「さっきはごめんね、お千ちゃん。
びっくりしたよね?」
「うん…」
「母さんを許してあげて欲しいんだ」
「…」
「母さんは情緒不安定なところがあって、自分でも止められないみたいなんだ。
辛い思いをしてきた人だからトラウマが沢山あって…
だから僕はもっとしっかりして母さんを守ってあげなくちゃって思ってるんだ」
「…」
「お千ちゃん、僕はまだ頼りなくて君を不安にさせてしまうかもしれないけど、僕はきっと立派な当主になってみせるよ!
だから僕の味方でいてほしい」
「うん…でも…」
「でも?」
「なんでよどかあさまは、おじいちゃんがきらいなの?」
「うん、それはすごく複雑で話すと長いから、おいおい…ね」
「ふうん…」

しばしの沈黙があった後、秀頼が言った。
「何かゲームしない?」
「え?」
「カルタとかお手玉とかあるけど」
「…」
「僕さ、妹とかいないし、好きな遊びとかよくわからないんだけど…
何かやらないかなって思って」
「じゃぁこれがいい」
寝室には人形やら見たこともない遊具やらが沢山あってわくわくさせられた。
秀頼は優しくて頼れる兄のようだった。

「江戸から大坂までって結構遠いんでしょ?
大変だった?」
「うん・・・」
「僕ね、死んだ父さんの遺言だから仕方ないんだけど、15歳になるまで城の外に出れないんだ。
でも城の外って気になるよね」
「千もね、はじめてでたばっかりだったけど、すごいよ!」
「うん、うん、いろいろ僕に教えて」

秀頼の父である秀吉は、秀頼が5歳の時に亡くなった。
たった5歳で秀頼は大坂城の城主となり、子供であることを許されずに現在も過ごしている。
寂しかっただろうに、母を守ってあげたいと願う優しい秀頼に千は好感を持った。
ひとしきり話をしてひとしきり遊んで緊張がほぐれると睡魔が襲ってくる。
いつの間にか二人は熟睡していた。