この日、謁見の間には昨日淀殿と喧嘩別れした福島正紀と加藤清正が来ていた。
少し遅れて秀頼と重成が入室してきた。
淀殿も一緒にいる治長も含め、ここにいる全員が二日酔いでぐったりしていた。

まず口を開いたのは福島だった。
「お方様、昨日は無礼なことを言って申し訳ありませんでした…」
しかし頭に響くので何となく小声で話は進んだ。
「私こそ…」
「いや…あの時は俺が考えなしに勢いで先鋒を務めてしまったせいで流れが一気に徳川のものになってしまったのは事実だ。
それがあの戦いだけでなく天下にまで及んでしまうなんて思いもしなかった…。
俺は秀頼様の味方だが…皮肉なもんだな…。
今は守るべきものが多すぎて、徳川ともうまく付き合っていかなくちゃなんねぇ。
はぁ~…。
あれだけ槍を振り回して自由に野を駆け回ってたのが嘘みたいに今はがんじがらめだ。
この歳になって力任せに直接ぶつかるだけが戦いじゃないって実感してますよ…」
福島は胸の内を明かした。
苦しそうな福島と淀殿の表情を見て、秀頼は苦しんだり後悔しているのは自分だけじゃないことを理解した。
「でもあなたが私の味方だと言ってくださってとても心強く思います。
ありがとうございます」
真摯に頭を下げる秀頼の姿に福島はグッと来るものがあった。
「でも徳川と対峙するようなことがあればいつでも言ってくれよな!
兵でも武器でもどんどん送るぜ!」
「いや、私は争う気はないですよ…」
「俺も秀頼さまの味方だが、できればもう戦は起こしたくない。
だから両家の懸け橋となって奔走する所存だ。
少しでも困ったことがあったら何でも言ってください」
加藤は決意を表明した。
「お二人ともありがとうございます」

場が和やかになった頃、侍従が淀殿に声をかける。
「お方様、鷹司家がお帰りになられるそうです」
「あら大変、ご挨拶しないと…」
淀殿は謁見の間を後にした。