淀殿が退出した後、秀頼は引き続き公家の皆や家臣たちと酒を飲みながら話を続けていた。

「やはり徳川の軍事力に対抗するためには私も少し考えねばならないと反省するところです」
大野治長は大坂城の軍の責任者である。
「おととし京を徳川の大軍が押し寄せたときは我々も生きた心地がしませんでした。
やはりこちらもある程度の軍事力を持ち合わせていないと、抑止力にはなりませんよねぇ」
鷹司信房は思い出して震えあがっている。
治長はこれからの軍の方針について鷹司父子や浅野幸長や重成と議論を交わす。

「徳川関八州250万石、譜代大名を合わせると約400万石…か」
「我ら豊臣は摂河泉65万石。
それに加藤殿の肥前熊本52万石、
福島殿の安芸広島48万8千石、
池田殿の播磨姫路52万石、
そして我が浅野家の紀伊和歌山37万7千石…」
「しめて約250万石」
「もしそこに前田殿の加賀120万石が加わった場合十分に対抗できるのではないか?」
「越前宰相殿は徳川の次男だがこちらにお味方くださるとこの間言っておられた」
「うむ」
「先ほど福島殿や加藤殿からは力になってもらえる旨話はさせてもらったが…
やはり各地方の大名に声をかけていくべきだろうな…」
治長は方針を固めたようだった。

皆が軍議に花を咲かせているとき秀頼は少し離れた位置で呟いた。
「僕って、何なんだろう…」
溜息がこぼれる。
「結局僕は何も成せないのか…」
幸家は秀頼に酒を注ぎながら静かに諭す。
「どうか今しばらくご辛抱ください。
けれどあなた様がなさってる寺社復興事業は間違いなく国家を支えてくださっています」
「ありがとうございます、幸家殿」
「ささ、もう一杯。
もし右大臣を辞任されたとしてもこれからも朝廷にご挨拶や献上品は欠かさずお納めください。
徳川は豊臣家を孤立させようとしていますので、何としてでも朝廷とのつながりは途絶えさせないでください」
「はい、幸家殿」
幸家は酒を注ぎながら静かにしかし色々話をする。
「ですので……ーーーーーーーー」
「はい……」
「それから…ーーーーーーーー」
秀頼は何だか眠たくなってきた。
「……」

そこに乳母の美也が秀頼を呼びに戻って来た。
「…美也、母さまは大丈夫なのかい?」
「はい、先ほどお眠りになりました。
秀頼さまもそろそろ…」
美也が言うと、治長が立ち上がって場を締めた。
「では本日はお開きにいたしましょう。
皆様、ありがとうございました!!」
宴は昼から始まったが、すっかり深夜になっていた。

秀頼が自室に戻ろうとすると、美也が別の部屋に秀頼を案内する。
「本日は、こちらに寝所を設けてございます」
一応”儀式”の最中であるから、そういう風習なのであろう。
「うん、わかった」
秀頼は少しふらつきながらその寝所に入っていった。



中には女性が座っていた。
秀頼を見ると深々とお辞儀をした。

「え…なんで…?」