困惑して意気消沈したのは、公家の皆も同じだった。
「あのー、言いにくいんですけど…
上洛して参内してもらうのはやっぱり難しいですかねぇ?」
信尚が困ったように訊くと淀殿はピシャリと言い切る。
「申し訳ありませんが、無理ですね」
淀殿の言葉を復唱するように、おばば様も
「危のうございますからなぁ、無理でございますなぁ」
と割って入ると、美也も
「お方様のおっしゃる通りです!」
と賛同する。
豊臣家の決定権はやはり淀殿にあり、周りの女たちは淀殿のイエスマンばかりだった。

「それは困りましたね…」
そう言ったのは現関白の鷹司信房だ。
「だって、今までだって大坂と朝廷で使者をやり取りさせてうまくやってきたじゃないの。
ねぇ?勧修寺殿?」
武家伝奏の勧修寺光豊は困惑したように苦笑いした。
「今までのことがこれからも続くだけじゃない。
何が困るって言うのよ?」
「秀頼様がご成人すれば、我々と共に公儀を務めてくださると思っておりました。
だからこそ、官職を他の者に譲らずにキープして置いたんです。
主上は、毎日参内できない大臣は辞任させるようにと方針を固めまして…」
「何ですって…!?」
「こんな事は本当は言いたくないのですが…そうではない勢力からの圧力が凄くて
もう我々が庇えるのはここまででございます…」
信房の言葉に勧修寺は泣きそうな表情を浮かべた。
武家伝奏という職業柄、勧修寺には毎日毎日激しい圧力がかかっていて、ストレスのせいで鬱病寸前である。
「……」
信房は続ける。
「徳川秀忠殿が内大臣を辞任したことで、空いたポストには幸家くんが就くことに決まっているんですが…
もし、秀頼様が参内して頂けず右大臣を辞任された場合…」
「!!」
「右大臣にはそのままスライドして幸家くんが就くことになりますが、どうされますか?」

どうする…?
女たちが顔を見合わせる。
淀殿は涙ぐむ。
「何で今まで通りじゃダメなのかしら…」