慶長12(1607)年。

「今年も羽根突きできそう?」
「今年は儀式とか色々あるから、ワンラリーくらいかなぁ?」
秀頼は今年成人を迎えた。
この頃の年齢の数え方は今と違っていて、産まれた時点で1歳、正月を迎えると2歳とされた。
実年齢では13歳と4ヶ月だが、数えでは15歳となる。
「大人」になったら、もうこんな風にして遊んだりできないんだろうか?
いつまでもこの時間が続けば良いのに。
千姫は少し寂しい気持ちになる。

早朝の中庭には、恒例の羽根つきが始まった。
すると、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「皆さま、お久しぶりでございます」
振り向いた千姫は嬉しくて大声で叫んでしまった。
「きゃーーーーーー!!!!
由衣姉さま!!!!?」
「お久しぶりでございます!
大きくなられましたね、お元気そうで」
そこには3年前に完子と一緒に九条邸に行った由衣が立っていた。
もうすぐ16歳の由衣はすっかり大人の女性で思わず見惚れてしまうような美しさがあった。
「由衣姉、すっごいキレイになったな、見違えたぜ!」
「ありがとう、重成殿」
「……」
固まってしまっている秀頼に重成は言う。
「秀頼様もビックリしてないで、何か言ってやれよ」
「あ…由衣姉…いえ、由衣殿、お久しぶりです。
びっくり致しました。
どうしてこちらに?」
「実は、秀頼さまの成人のお祝いの宴に九条様がお呼ばれしていまして。
私は付き従って参りました」
「えっ、そしたら完姉さまも来てるの!?」
千がワクワクしながら聞くと、また背後から声がした。
「私もお邪魔しても良いかな?」
そこにはスラリとしたそこまでおじさんでもない男性が立っていた。
誰??
と千姫が思っていると、秀頼が挨拶をした。
「お義兄さま、お久しぶりです」
「いきなり早朝の羽根突き大会にお邪魔してしまって申し訳ありません」
ニコッと微笑ったその男性は
「随分と大きくなられましたなぁ。
これは将来が楽しみです」
と秀頼に向かって言った。
秀頼の身長は175cmを超え、まだまだこれから伸びそうだ。
声もすっかり低くなり、身体つきも男らしくなってきた。
が、まだあどけない顔つきがギャップ萌えである。

千姫が秀頼の後ろから訝しげに見ているとその男性はかがんで視線を低くしてから笑顔で挨拶した。
「初めまして、千姫様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです、はじめまして」
「完姉様の旦那様だよ」
秀頼が説明する。
「えっ、完姉様の!?」
9歳の千姫には22歳の九条幸家はものすごい大人に感じた。
「可愛らしい姫様ですね。
完子に聞いた通りです」
幸家は柔らかい話し方をする。
かつて淀殿が言っていた通り、お顔立ちは可もなく不可もなく薄くて当たり障りがないが、確かに幸家は癒し系だった。