花のようなる愛しいあなた

風も涼しくなってきた頃、寧々さんが大坂城にやって来た。
田んぼをチェックするためだ。
みんなで育てた稲は黄金色に輝き収穫を残すのみとなっていた。
千姫や松にとっては初めての刈り入れである。
わくわくが止まらない。
小作人を始め、多喜や手の空いている侍女たちも加わり、寧々さんの指示でどんどん収穫していく。
小さな田んぼなので数時間で作業は終わった。

「では、お茶でも淹れてきますね」
多喜が炊事場からお茶を持って戻って来ると、一人の男に声をかけられた。
「よぉ。久しぶり」
「!」
多喜はびっくりしてお茶をこぼしそうになった。
「…何であなた様がここに…?」
「寧々さまに頼んで連れてきてもらったんだ。
お前が江の姫君に着いて一緒に大坂に来てるって聞いてな」
「ちょっと、待ってて…」
多喜はみんなにお茶を出した後、少し離れた場所で男と話をし始めた。

その男は歳は多喜と同年代だろうか。
大柄で威厳はあるが、体中赤黒い痣に覆われていて遠目でも辛そうに見えた。
「何年ぶりだ?」
「…」
「元気だったか?」
「おかげさまで」
男は愛おしそうに多喜を見る。
「相変わらずきれいだな、多喜は」
「……」
そして自嘲気味に言う。
「ひどいだろ、俺の顔。
病魔に侵されてこのザマだ」
男はたまに咳をする。
「こんなところに来ている場合ではないでしょう、寝ていないと」
「イヤ、この病気は治らない。
俺はもうそう長くない…。
だから会いに来たんだ」
「……」

男は千姫と松を眺めて言う。
「あの娘…お前の子か?」
「ええ」
「江戸の姫に瓜二つだな」
「そうかしら」
「従妹だってだけであんなに似るか?」
「寄せてるしね」
「秀忠の子か?」
多喜はかっとなって言う。
「バカ言ってんじゃないわよ!
違うにきまってるでしょ!!!」
「そうか、じゃあ俺の子か?」
「…違います」
「違わないだろ、あの時の子なんだろ?
幾つになる」
「……」

男の名前は、松平秀康。
徳川家康の次男で、秀忠の腹違いの兄である。