5月。
大坂城に高台院(こうだいいん)こと寧々(ねね)さんがやって来た。
寧々さんとは、秀吉の正妻であり、この家を秀吉と一緒に大きくした立役者である。
子供はできなかったが、あちこちから預かった養子や人質たちを育てまくったスーパーウーマンでもある。
淀殿やお初さん・江も子供だった頃、寧々さんにお世話になりまくっている。
今は、秀頼は寧々さんの養子となっているので秀頼の嫡母でもある。
秀吉の死後、寧々さんが住んでいた西の丸に家康が政務どころを作るために乗り込んできたので追い出されるような形で京都の清水寺のほど近い高台院に移り住んで隠居生活を送っている。

この日は家康から依頼されて、豊臣家のみんなを祝賀会に出席するよう説得に来たのだった。

「あのねぇ、淀さん。
あなたいい加減になさい。
偉い方が出向いちゃいけないんだったら、私は何なのよ?
あなたと私だったらどちらが偉いの?
大体、側室のあなたが正室の私に挨拶来たことなんて一度もなかったじゃない!」
寧々さんは従一位、淀殿は従五位下である。
ちなみに寧々さんは淀殿より21歳年上なのである意味母娘のような感じでもある。
「挨拶しに行ったら臣下にならなきゃいけないとか、どっちが偉いとか!
もうそういう事をガタガタ言ってる時じゃないのよ!
親戚としてお祝い事に招待されてるんだから出席しなさいよって言ってるの!
このまま両家に亀裂が入ることになったら…また戦になるとか大騒ぎになるでしょ?
もう、長い事かけてせっかくここまで平和になったんだから…お願いだから大人になって少し折れるってことを学んでちょうだい」
豊臣家のトップである寧々さんの言葉に淀殿は納得がいかない。
「…寧々さまも狸に調略されたクチですもんね…。
太閤が死んだら、狸とできてるって噂じゃないですか…。
だからそんなこと言えるんじゃないんですか…」
「お方様、なんて事を…!!!」
「謝罪なさりませ!」
無礼極まりない態度にさすがのばあやや美也も大慌てで諫める。
寧々さんはやれやれと言った様子でため息をついた後、うんざりとした顔で言う。
「あぁもう、この()は何も成長してないわね、イヤになるわ」