多喜が言いにくそうに言う。
「お父さまが2代目の江戸将軍に就任されたそうです…」
「え?
お父さまが!
すごいねー!」
「そうですね…」
「おじいちゃんはいそがしくなくなるね!
大坂にかえってきてくれるのかな?」
「…隠居して余生をゆっくりしたいらしいですよ…」
「そっか!でもたまには遊びに来てくれるかなぁ?」
「……」
「わたし、お父さまにおめでとうっておてがみかく!」
無邪気に喜んでる千を見て、多喜はボロボロと涙を流す。
「え?
どうしたの?
たき??
何で泣いてるの?」
「私は、家康様が秀頼様が大きくなるまでの間江戸将軍をやって、その後秀頼様に職をお譲りするものだと思っておりました…!
誰が何と言おうと…そうされるものと信じていましたのに…」

日本全体の政治をつかさどる征夷大将軍職。
正月早々、家康は年齢を理由に辞意を表明した。
そして息子の秀忠にその職を継がせるように朝廷に上奏した。
朝廷もそれを受入れ、秀忠が江戸の第二代目の将軍となった。
これによって、将軍職は徳川家の世襲で継いでいくことが正式決定されてしまった。
豊臣家の知らない間に。
特に徳川家に男児が誕生した今、秀頼が成人しても政治の主導権を返すといった約束は守られることはないだろう。