どのくらい走っただろう。
私は茶臼山にある祖父の陣所に辿り着いた。
修理さまは私を陣所に届けると、燃え盛る大坂城へと戻って行った。
大坂城の中にいる皆へ伝える為だ。
「どうかご無事で」
「姫様も」

「おお、お千!
無事だったか!」
小太りの人の良さそうな老人が奥から嬉しそうに現れた。
「しばらく見ないうちに美しゅうなったのう!
こうしてまた生きて会えるとは…」
「お爺さま!」
「豊臣家がお千を返してくれないと聞いた時にはもうおじいちゃん、生きた心地がしなかったぞ」
「お爺さま!!」
「恐かったろう、お千。
もう大丈夫じゃ、おじいちゃんがお前を守ってあげるからな!」
「お爺さま!!!聞いてください!」
「何じゃ、何じゃ」
「お願いです、攻撃をもうやめてくださいませ!
豊臣方は降伏します。
ですから攻撃をやめてくださいませ!!」
「それは…難しいのう…」
「お願いします!!!
あの人を…秀頼さまを助けてください!!!」

ドーン
ドーン

遠くで大砲が撃ち込まれる音が聞こえる。
私は泣きながら必死に訴える。
「お願いします、もうやめてください!
助けてください!!!」

「お千、やめてあげたいのはやまやまなんじゃが、
総大将はおじいちゃんじゃなくて、お父さんじゃろう?
おじいちゃんが勝手に止めるわけにもいかないし…
それにほら、
大砲台はここじゃなくて、岡山にあるから、止めたくても止められないじゃろう?」
「そんな…!!」
「岡山にお父さんがいる。
もしかすると間に合うかもしれないから、お父さんの所に行ってみなさい」

さっき、この陣所に案内してくれた男どもを護衛に私は走る。
馬を必死に飛ばして岡山に到着する。

陣の奥から苛立った男の声が聞こえる。
「お父さま!!!」
「…は?千だと…!?」
12年ぶりに再会した父は冷酷な表情を浮かべていた。
「…今更何しに来た…」
私は攻撃をやめて欲しいと、必死に懇願した。
しかし、父は目も合わせず冷たく言い放った。
「遅ぇよ…」
「……」
「お前、何でここ来てんだよ…
何であいつと一緒に死ななかったんだよ?
…ったく、恥さらしも良いところだ…!」
「そんな…!!!」

そして父は叫んだ。
「総攻撃を開始する!!!
大坂城をぶっ壊せ!!!!」

今までとは比べ物にならないくらいの大砲や弾丸が大坂城に一斉に撃ち込まれる。
まるで弾丸の雨が降ったかのようだった。
たちまちに大坂城は崩れ落ちていき本丸も天守も炎に包まれた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
気づくと私は気を失っていた。