「きゃあああああぁぁぁ!!!!」


淀殿は自分の悲鳴で目を覚ました。
「母さん、母さんっ!!
秀頼の声に淀殿はハッと我にかえる。
「ここは…?」
「母上の寝所ですよ、
大丈夫ですよ」
「秀頼さま…」
「また恐い夢を?」
「…」
この所、淀殿は悪夢ばかり見る。
いや、この所ではない。
それは、幼い頃からずっと繰り返し見ている悪夢だった。
たまに見ない時期もある。
しかし、不安になったり疲れた時はこの悪夢が毎日襲ってくる。
悪夢から逃れようと淀殿は必死にもがく。
おかげで深酒が増えた。
特に蒸し暑い今日みたいな日はあの日のことを思い出す。
あの日から幾年経つのか…。

「大丈夫、僕がいますよ」
秀頼は淀殿を抱きしめる。
「ありがとう。
優しいわね」
「今日は僕が手を繋いでてあげますよ」
「いつの間にかこの手も大きくなったわね…」

もうすぐ11歳になる秀頼はすくすくと美しく成長している。
背の高さももうすぐ淀殿を抜いてしまいそうだ。
淀殿も168cmと当時としては珍しい長身だったが、秀頼は更に長身となるだろう。
15歳の成人を迎えるまで、秀頼が政治を動かすその日までに、逞しく優しくそして賢く立派な天下人へと育て上げることだけが淀殿の生き甲斐となっていた。


この子が立派に天下人になればあんな夢なんて見ないですむはず。
狸の好きにはさせない。
今に見てなさい。