正月の豊臣家には、朝廷の使いや、公家衆、豊臣恩顧の大名や家臣と沢山の客人や使いの者たちが挨拶にやってくる。
例年何日もの間、夜明けから日が暮れるまで次々と挨拶にやってきて大変だったのだが、今年は数日で終了した。
「これだけ…?」
淀殿は動揺しながら大野治長(はるなが)に聞いた。
「………はい………」
「なんで…?」
「関ケ原の合戦でかなりの家が取り潰されましたし…」
「それは昨年だって同じことでしょう!?」
「…江戸に挨拶に行ってるものが多いようです………」
「!!!」
そこに片桐が口を挟む。
「昨年、江戸に幕府が開かれましてから、江戸屋敷に居を移した者が多く…まず近場から挨拶に行ってるものかと…」
「江戸が一番、大坂は二の次ってこと!?」
「え…ええと」
片桐は言葉を失う。
「てか、狸はどうした!?
あいつは豊臣家の家老でしょ?
正月くらいここに帰って来るべきじゃないわけ!?
江戸に幕府開くとかも聞いてなかったし、右大臣辞めたとかも聞いてなかったし、新年にそういうことへの報告とかお詫びとかあってしかるべきじゃないの!?
大体あいつの孫娘だっているのに、様子を見に来たって良いんじゃないの?
青い血でも流れてるんじゃないの!?冷血漢が!!」

正月早々、ヒステリーを起こす母を秀頼が優しく諭す。
「母さん、またそんな風に…。
…僕が政務を行うようになれば自然と家臣たちも集まってくるようになるよ…」
「その通りですわ」
おばば様も同調する。
「ううん、そうじゃないのよ…。
あいつは自分が天下を取るつもりなのよ!!
あいつはそういう奴なのよ!!!」
誰もが頭の中で思っていて誰もが口にできなかったこの淀殿のセリフに『そんなことないですよ』のこの一言を誰も言うことができなかった。
「あいつが豊臣家をのけ者にして権力を増長させて好き勝手やるのを止めなくちゃいけないから、だからここで監視してるのが一番なのよ!!!
だから大坂に戻って来させないといけないのよ!」
皆が黙り込む中、片桐だけはのほほんとしている。
「そんなことないと思いますよ。家康様は律儀で礼節を重んじるお方ですから」
「どうだか!」
淀殿は片桐を睨み、治長に小声で言った。
修理(しゅり)!恩知らずの大名どものリストを作成してちょうだい!
秀頼さまが政務を行うようになったらそいつらを糾弾してやる!!」
「はっ…」