秀頼一行は御所の敷地近くを通る。
御所の敷地内の南端には九条家や近衛家鷹司家などの摂家の屋敷が並んでいる。
九条邸の前を通りかかった時である。
「ぷっ」
重成が何かを見つけて吹き出し、秀頼に小声で報告してくる。
「秀頼様」
「どうした?」
「あそこの屋根の後ろにチラッと見える桜の木にしがみついてる女がいるんだけど…」
「ん!?」
「絶対完姫だと思うんだけど」
「え?」
秀頼はしばし行列を停止させ御簾を上げて空を見上げた。
塀の向こうに見える桜の木には確かに完子らしき姿が見える。
「ほんとだ…」
秀頼も笑いを堪える。
でも変わってない姉の姿を見てホッとした。
「全く…姉上らしいや」
「隣の木にいるの、幸家様じゃね?
「そんなキャラじゃなかった気がするんだが…」
あの方も…色々大変なんだろうな…。
秀頼と重成は色々察した。

「きゃぁぁぁっ!
何てステキなのかしら!」
「こっち向いたわ、やばいやばい」
「あぁ花も霞むような美しさだわ…」
どこからか黄色い歓声も上がった。
爽やかな風が吹き桜の花びらが舞い落ちる。
花吹雪の中少し空を見上げて微笑む様子の秀頼を垣根の隙間から覗いていた女子たちが我慢できずに叫んでしまったようだった。
どうやら秀頼が花が舞う様子を愛でていると思われたらしい。
「雅だわ~~~!!!」
重成は聞こえなかったふりをして再びキメ顔で歩き始める。
秀頼も再び微笑んだ後、何食わぬ顔で御簾を降ろし二条城へと向かった。


「秀頼、もう、立派になって…!!
超イケメンじゃん!!!」
7年ぶりに垣間見る弟の姿に完子はもう涙が止まらない。
「重成もイケメンに育ったじゃない!!
残念な感じに成長しなくて良かったわ!」
幸家は微笑ましく完子の様子を見ていたがちょっと拗ねた様子で言った。
「やっぱりイケメンの方が好きですか?
当たり障りのない薄い顔よりも」
普段は飄々として物事を淡々とこなす幸家なのに完子にだけは子犬のような眼差しを向けてくる。
「もう、何言ってるのよ、この人は!
2人も子供作っておいて…今更…」
「完子さん、もう1人作りましょうか、今すぐにでも」
「ちょっとちょっと!
幸家様は即位式の準備があるでしょ!
はい、仕事仕事!」
「は~い、そうですね
私も頑張らないとですね」