「でも、秀頼くんが馬に乗ったところ初めて見た」
「あれ?そうだったっけ?」
「そうだよ~!
すごいカッコよかった」
千姫が嬉しそうに言うと秀頼も照れたように微笑んだ。
「ありがとう。
練習場が本丸から離れてるから、そういえばなかなかお披露目できなかったかもね」

”剣技大会の練習”ということで秀頼は今回乗馬の特訓をした。
特訓と称して城の端の方まで馬を走らせ城内を色々見て回っている。
大坂城の敷地はとてつもなく広い。
敷地の端まで行こうと思うと馬がないとちょっとしんどい距離である。

「私も乗れるようになりたいな」
「またお転婆姫は」
「私も一緒に探査したい。
大勢の目で見た方が井戸も見つけやすいと思うし」

今、秀頼たちは井戸を探している。
この間の剣技大会で行う毬突きの練習を千姫たちがしていた時のことだ。
跳ねた毬が井戸の中に落ちていった。
井戸の底をどれだけ見ても毬が見つからない。
身体の軽い小姓が少し井戸に潜ったところ、人が通れそうな横穴があることに気づいた。

大坂城にはたくさんの井戸があった。
それは湧き水を使ってるところもあるが、ほとんどは川から水を引き地下に水道管を作って井戸まで運んでいる。
それは複雑に構成されていて上水と下水に別れていて大坂の街全体を支えていた。
それを汲み上げて生活用水にしているのだが、その水路に合わせてメンテナンス用の横穴があるとしたら…?
秀頼たちは井戸と水路の調査に乗り出していた。

「調査には連れていけないけど…そうだね。
じゃぁ、今度乗せてあげるよ」
「ほんと!?」
「ちょっと秀頼様」
重成が口を挟む。
「急いで調査しなくちゃいけないんですからデートしてる場合ではないです」
「イヤ、今すぐにという訳じゃなくて」
「ですから姫様は申し訳ないですけど」
6月から京都での大仏再建が進んでいる。
そのため片桐や徳川家の使いの者や外部の者たちは全員京都に行っている。
今が内部散策をするまたとないチャンスなのだ。

「わかった。
じゃぁ調査が落ち着くまでの間、自主練して乗れるようになっておくね!」
「はっ!!?」
「2人乗りも憧れるけど、一緒に並んで城内の散策出来たら素敵だなって思ったの」
やる気満々の千姫を見て秀頼は嬉しそうに笑った。
お転婆なことをしたがる癖に我儘は言わない従順なところもあるこの妻に我慢ばかり強いたくはない。
「そんなこと言いだす女性は他にいないだろうな。
早く調査し終えないと」

それからしばらくは千姫は乗馬の特訓にいそしむ日々を送ることになったという。