両親を死に追いやったあいつは私の前では優しかった。
あいつは私に頭を下げ何度も謝った。
女と見れば手を出す見境のない野獣のような男だと聞いていたけれど
あいつは私に手を出して来なかった。
両親も住む場所も何もかもあいつに奪われた。
何もかもが信じられなくて、常に不安だった。
何もかも疑ってかかって
泣いて
喚いて
相手を傷つけて…
自分でもわかってる。
そんなことしたって
もう何も変わらない。
けれど気持ちが収まらない。

あいつは何も言わずずっと私の罵声を浴び続け、ひたすら謝った。
「あなたのためなら、何でもするから、どうか私に償わせて欲しい」
私の一生を台無しにしたこの責任は重い。
「だったらあんたの全てを私に寄越しなさいよ。
日本で一番の城も、富も名誉も財産も全部私のために用意しなさいよ!」
あいつは言われた通りにした。
豪華な城に一番の部屋。
袖を通しきれないくらいの大量の衣に
まばゆい装飾品。
舶来物の珍しい品々。
あいつは何でも私に寄越した。
けれど私の心は何も満たされなかったし
不安は消えることがなかった。

ある時あいつは私に縁談を持って来た。
「何で!?
何で私を追い出そうとするの!?
私が邪魔になったってことなの!?
責任取るって言ったじゃない!」
「ですから貴女様に幸せになって頂きたく縁談を…」
「どうせあんたは私が行く場所を攻め滅ぼすに決まってる。
だったらここが一番安全ってことじゃない!!」
「…ですが…」
「あんたのせいで夜が怖いの!
毎晩怖くて眠れないのよ!
ちゃんと責任取ってよ!
私が安心して眠れるように!!

国で一番偉くなって
誰もが逆らわないようにして
国で一番丈夫で安全な城を私のために用意しなさいよ!
一生かけて私に尽くしなさいよ!!
私から離れないでよ!!!」
「ーーーーー茶々姫様、畏まりました」
その夜あいつは初めて私に触れた。
その夜から私はぐっすり眠れることが増えたような気がするーーー。


何なのよ
私を守るって言ったくせに勝手に死んで
私の人生を狂わせた代償はこんなものじゃないのよ
許さないから
死んだってあなたの罪は許されるものじゃないの
だからこれからもあなたのものは私が使う権利があるの
あなたは死んでからもなお私に尽くすのよ