1月21日。
大仏再興プロジェクトが開始した。
まずは顔合わせである。

片桐は寺社奉行として責任者に改めて任命された。
大工棟梁は、徳川家からのヘルプでやって来た中井正清(まさきよ)である。
「お久しぶりでございます」
中井は5年前に豊臣家が修復を行った法隆寺で大工棟梁として働いてくれていて、豊臣家のもとで働くのは久しぶりとなる。
今は徳川家に仕えている中井家だが、代々京都の宮大工の棟梁を務めており、以前は秀吉に仕えていた。
今の大坂城を設計したのも中井の亡き父親の正吉(まさよし)である。
燃えてしまった先代の大仏殿も正吉が棟梁を務めていたこともあり、正清にとっては思い入れのある事業となる。

「こうしてまた一緒に仕事ができますこと嬉しく思います」
「こちらこそ、頼りにしています。
先代に負けぬ立派なものを作りましょう」
秀頼が言うと、中井は気弱なことを言い始めた。
「実は私めは今回の大仏殿のような大きな建物を建てるのは初めてでございます。
ですから、果たして私めが持ち合わせている技術で耐震性を鑑みた建物ができるかどうか不安なのでございます」
二条城建設や伏見城の再建、駿府城の建設など大きい建物をバンバン作りまくっているくせに、中井はしれっと言い放った。
「何を仰いますか、中井家が作る建物はどれも素晴らしいではありませんか。
先代のころから中井家はーーーー」
片桐がフォローを入れると
「そうか!」
中井は何かを思いついたように小さく叫んだ。
「この大坂城は父が手掛けた最高傑作です。
この大きさにして慶長の地震の時にもびくともしなかったと聞いております。
礎石の数や柱や梁の仕組みなど…父の残した技術を見て回り大仏殿に活かしたいと思うのですが」
「なるほどですな!
良い考えですな、いかがでしょうか?
秀頼様!」

城は機密事項でいっぱいである。
今や徳川家に仕えるこの男に城内を好き勝手に歩かせメモを取らせるというのは非常に危険な行為である。
しかし、大工棟梁として必要な技術を見て回らねば大仏殿が作れないと言われれば許可せざるを得ない。
「そうですか、それでは御父上の最高傑作をゆっくりと見て行ってください」
「ありがとうございます」

「いやぁ、ようやく始まりますなぁ!
去年は結局鞍馬寺の再建だけで終わってしまいましたから、ちょっと物足りなかったんですよねぇ」
片桐は興奮している。
「では城内は東市正殿が案内して差し上げよ」
「はっ」
「中井殿、よろしく頼みます」
「かしこまりました」