側室が無事に男児を産んでくれたと報告が入ったその日、お松ちゃんが血相を変えてやって来た。
お千ちゃんが倒れたという。
やはり気丈に振る舞っていても、ショックだったに違いない。
僕よりもずっと小さい女性に無理をさせて…
情けない男だな、僕は…。
そう思ったら自然と足はお千ちゃんの部屋に向かっていた。

お千ちゃんの部屋から出て来た侍女が布みたいなのを抱えて出て来たのが見えた。
「!!!」
大量の血がついているではないか!
僕と目が合うと侍女は布を隠すようにして足早に通り過ぎようとする。
「待て!!何があった!!」
「…いえ…あの…」
侍女はしどろもどろしながら走り去ってしまった。
あんな大量の血、よほどの傷を負わない限りつくはずがない。
まさか、お千ちゃん…
ショックのあまり………!!?


バンッ!!

秀頼は勢いよく千姫の部屋の襖を開けた。
「お千ちゃん、無事か!!!?
早まるな!!!!」
「ひひひひ秀頼くん…!?」
千姫はびっくりして飛び上がった後、真っ赤になって顔を隠してしまった。
「大丈夫か!?
怪我した場所はどこだ!」
「怪我してない、大丈夫」
秀頼がこんな大きな声を出した事がかつてあっただろうか。
千姫は気圧されてオウム返しのような返答になってしまった。
「本当か?」
「本当です」
秀頼は千姫の体をよーく見て怪我してないことを確認すると、安堵したようにため息をついた。
「僕のことで悩んで自決しようとしたのかと…焦った…」
「やだなぁ、秀頼くん…。
こないだちゃんと話し合ったじゃない。
大丈夫だよ…。
私を信じて」
千姫は秀頼の手に触れる。
こわばったその手は少し冷たい。
「でも心配してくれてすごく嬉しい」
「でも君の部屋から血のついた布を持って出てくる侍女を見かけた。
あれは何だったんだ!」
「…ええと…」
「誰が怪我したんだ!?
ちゃんと治療させないと!」

「秀頼様」
多喜が秀頼にコソッと耳打ちする。
「え?」

千姫に初潮が訪れたとのことであった。
「え…っと…おめでとう…?」
「……ありがとう……」