福島殿はあの子と話をするきっかけをくれた。
この機を逃したら確かに話をすることはできないだろう…。
僕は意を決した。

「実は君に謝らなきゃいけないことがある」
「どうしたの?」

その声は穏やかで僕は罪悪感でいっぱいになる。
あの子の顔を見れない僕は俯きながら言葉を絞り出した。

「実は…僕には側室がいて……」
「うん…」
「その方に…僕の子が宿った…」
「うん…」
あの子の声があまりに穏やかで優しいから僕は思わず顔を上げた。
そこには小さな女の子とはもう言えない美しい少女が座っていた。
いつの間にか成長していたあの子は僕の目を見て優しく微笑んだ。

「何となく、そんな気はしてた…。
でも、秀頼くんの病気が治って元気でさえいてくれれば私はそれが嬉しい」

彼女の悲しそうな笑顔を見て僕は今度は止まらなくなった。

「ごめん、お千ちゃん…!
君を悲しませるようなことはしたくなかったんだ。
でも豊臣のお家の為には一刻も早く後継が必要だったんだ。
でもこんなこと言い出しづらくて…
結果的に君に一番酷いことをしてしまった」

あの子は黙って聞いている。

「母さんには毎日早く世継ぎを作れって言われて…
毎晩違う女性(ひと)が部屋にやってくる…。
こんな僕を…軽蔑するかい?」
するとあの子は僕を優しく抱きしめた。
暖かくて心地良くて…。

「秀頼くん、
泣いていいよ。
辛かったね。
孤独だったね。
助けてあげられなくてごめんね。
気づいてあげられなくてごめんね」
「お千ちゃん…
君が僕のことを慕ってくれるからずっと頑張って来れた。
君のまっすぐで純粋な気持ちを裏切りたくなくて、内緒にしたかった。
いや、僕が君に嫌われたくなかったんだ…。

君に嫌われるかもしれない
そのことがこんなに辛いことだったなんて…」

僕はもしかするとあの時泣いていたのかもしれない。

「私はずっと秀頼くんの味方だよ。
ショックはショックだけど、お家の為を思えば仕方がないよ。
それに、大坂に来た頃からずっと側室を迎える必要性については言われてたの…。
いつかこの時が来るっていうのは分かってたし、寧々さまからも正室としての心構えを教えてもらったし」
あの子は笑顔で宣言してくれた。
「私は秀頼くんの正妻として、どーんと構える!
秀頼くんの子は私の子だよ!
豊臣の子は私の子だよ!
一緒に育てようよ!」
いつの間にかこんなに強い女性に成長していたなんて。
こんなにも支えてもらえることが嬉しいことだったなんて。
「ありがとう…
ありがとう………」