「そんな事は……」
照れている彼女が本当に愛おしい。
だから俺は、俺でいられる。
救われると思った。フフッと笑みがこぼれた。
「まどかは、優しいからな。
だから、導かれるように惹かれたのかも知れない」
「課長……」
「人は、自分に無いものに惹かれたりするからね。
俺に無いものをまどかは、持っている。
そして、それを補い新たな自分に成長させる。
不思議なものだよね。でもね。
これだけは、忘れないで欲しい。
それが必然だったとしても…惹かれるのは、
理屈ではない。だから自分を信じて欲しい」
真っ直ぐと彼女を見て伝えた。
成長出来てない俺には彼女が必要だ。
すると俺は、障子の方を見て
「そういう事だ。麻白。
出ておいで。そこに居るのだろ?」と伝えた。
麻白がずっとそこで話を聞いているのは、
知っていた。麻白が入ってきた。
麻白は、しゅんと落ち込むように黙ったままだった。
悲しそうな表情で……。
「麻白。君の気持ちは、嬉しいよ。
しかし君の気持ちには答えられない。
俺は、まどかが居るからね」
俺は、ハッキリと伝えた。
だが麻白は、納得がいかないらしい。
涙目になりながら俺を睨んできた。
「そ、そんなの納得がいきませんわ!!
龍心お兄様は、ただ…運命という言葉に
翻弄されているだけでありませんか!?
まどかさんが運命の人だからとか過去がどうとか
そんなの周りを見ていない人の言い訳じゃない。
私は、幼少期からずっと龍心お兄様を見てきましたわ。
誰よりもそばに居て龍心お兄様を
理解してきたつもりです。
なのに…突然現れたこの人にアッサリと
持って行かれるなんて納得がいきませんわ!?
こんなのただ恋に恋をしているだけですわ」
「麻白…しかしだな」
「龍心お兄様。早く目を覚まして下さいませ。
過去や運命なんて人間が作り出した幻想ですわ!!
もっと周りを見て下さい。
あなたに相応しい相手は、この女ではありません。
私ですわ。あなたも勘違いしない事ですわね?
お寺のこと何も知らないくせに。
お寺と神社の区別も出来ない方に
負けるなんて許しませんわ。必ず潰してやりますわ」
それだけ言い放つと走って行ってしまった。
俺と彼女は、唖然としてしまう。
麻白の行動には、昔から驚かされる事はあった。
見た目と違い結構な行動力がある。
こんな俺でも慕ってくれるのは嬉しいけど……。
「……麻白の奴。勝手な事を…」



