「自分の苦しみは、人を理解するための
苦しみとなれ。
人の痛みに理解が出来ない人は…やはりそれだけの
理解が足りないからね。
自分は、同じ立場に立った事がないから
痛みが、どんなものか分からない。
だから経験させるんだ。長い時間や
転生を繰り返しながらそれが、仏の教え方だ」

「だが俺のやり方は、その経験を途中で
終らせようとしている。
現世の悔やみや懺悔を現世で払わすために。
それだけではない。死んだ人をずっと呼び寄せる事は、
その人を過去に縛らせる事にもなりかねない。
お互いの成長を止める原因になってしまうからだ。

「…課長……」

彼女は悲しそうに俺の名を呼んだ。
俺は、クスッと笑う。

「父さんの言いたい事は分かるんだ。
心配なのだろう…母さんを過去に縛りつけている。
そして、俺が心の底で母さんの死を受け入れて
いないことに。
お互いに成長を拒んでいるから」

「前に言ったと思うけど…この力は、
毒にも薬にもなる。一歩間違えたら
仏も脅かす毒にもなりかねないって
人の闇は、それぐらい欲深く厄介でもあるから。
父さんは、それを心配しているんだ。 
俺が間違った方向に行かないかと……」

苦しい……。
自分の罪や現実を受け入れるのが……。
母さんとお別れを言うのが。
まどかや周りには、偉そうな事を言っておきながら
自分自身は、それを拒んでいる。

怖い……。
俺は……どれだけ欲深く、厄介な人間なんだ?
考えれば、考えるほど闇に呑み込まれそうになる。
冷たい感情が支配していく。

「課長は、毒にはならないと思います!!」

すると彼女は、勢いよく口に出した。
ハッとさせられた。

「だって…ゆいかを助けてくれたではないですか?
家族も凄く感謝しています。それだけではない。
課長の力で助けてもらった人達は、皆感謝して
笑顔を取り戻していました。
それは、すべて課長の優しさからです!
そんな優しい課長を誰も毒とか罪深い人だと
思いません。仏様だって
ちゃんと分かっていますよ!」

彼女は、必死に訴えてきた。
俺を励まそうとしてくれていた。
すると黒い感情が消えて行く感覚がした。
まるで浄化されて行くようだ。

あぁ、涙が出そうだ。
俺は、罪の意識で闇に呑み込まれそうになると
彼女は、いつも救ってくれた。
存在を知られてなくても…大切にしたいと思える人が
居ると自分の存在に意義があるのだと思えた。
そう思うとクスッと笑顔になれた。

「…そうだな。自分を悪く思っていたらダメだな。
やはり俺も成長出来ていないようだ。
俺なんかより、まどかが1番大人に見える」