でも……あのままだったら、俺はどうなっていたのか、わからない。
一生、あの城の中で飼い殺しになっていたかもしれないんだ。
それを思ったら、これからの人生はまさにおまけみたいなもんだ。
出来ることなら、心静かに暮らしたい。



嘘ばっかり吐いて…その嘘がバレないかと、常にひやひやする、あんな暮らしとはもうおさらばしよう。
女達にも本当に悪いことをしてしまった。



おかしなもんだな。
昔の俺は、真面目で、恋愛にもどちらかというと晩生で、しかも、一途で…
そんな俺が、結婚詐欺師になるとはな。
どっちが本当の俺なのか、わからない。



感傷に浸ってる場合じゃないな。
とにかく、問題は明日の乗船だ。
船が出てしまえば問題はないが、出航する前に万一見つかってしまったら…せっかく、アンジェラに逃がしてもらったことが不意になる。



今日は、港の様子を下見に行って来た。
港に行ったのは、もう十年近く前のことだから、様子が変わってるかもしれないし、忘れていることもあるだろうと思ったからだ。
とにかく、明日は朝に出る乗りあい馬車に乗り、出航までは食堂で時間を潰すしかない。
馬車が着いてから、出航までは2時間程度だ。
港には食べ物屋が何軒かあるだけだ。
それ以外には、身を隠せそうな場所はない。
当日、誰かに話しかけて、同行させてもらうか。
一人だと却って目立ってしまいそうだから。

俺はそんなことを取り留めもなく考えながら、街道を歩いていた。