その元彼氏がどこで何をしているのかは知らないとお母さんは話していた。

目の前にいる男性の正体をさとり、私の体が震える。

「あなたは……母の元恋人ですか？お兄ちゃんの父親……」

私が訊ねると、四十代くらいの男性は頷いた。そして、女性と二十代くらいの男性を紹介する。

「この女は俺の妹。そして妹の息子だ」

四十代くらいの女性と二十代くらいの男性は、私の方をちらりと見て目をそらした。

「あなたの目的は何ですか？」

「お前の母親が離婚して、息子を連れて俺と再婚することだ」

予想もしていなかった誘拐犯の目的に、私は耳を疑う。目の前にいるこの男性はお母さんを捨てた人なのに……。

「あなた、何を言っているかわかっているんですか！？あなたは……私の母と兄を捨てたんですよ！？今さら……」

私は怒りのあまり、立ち上がって言う。しかし男性たちは顔色一つ変えようとしない。

「聞いたぞ。俺の息子は大学生になるんだって？しかも有名な大学に……。そんな優秀な人間ならうちの家系に入れておくべきだ」