「お、ナイトの登場。…優芽!起きて。泰晴来たよ!」

 莉子がぺちぺち顔を叩くからうとうとしていた意識が戻ってきた。

「あ、泰晴だ~」

 泰晴が私を見て顔を歪めた。ん?怒ってる?

「辻先輩!お疲れ様です!」
「おい、文月。優芽にどんだけ飲ませてんだよ。」
「…」
「ちょっと文月王子怒らないでよ。私が飲ませたんだから。」
「莉子~こいつ弱いんだからあんまり飲ませるなよ。」

 珍しく泰晴が怒ってる。私は泰晴を抱き締めて背中をポンポンした。

「よしよし。怒らないの~。どうしたの?」
「ったく。優芽のせいだっつーの。飲みすぎだよ。」

 泰晴が苦笑いをしながら答える。あ、笑った。もう怒ってないかな。

「じゃ、俺、優芽送ってくから。さっきはごめんな、文月。」

 泰晴が私の手をつなぎ部屋から出て行こうとする。

 何か忘れている気がするけど…なんだっけ…?

「あ、ちょ、辻先輩。」

 ゆうきゅんが固い表情で泰晴を呼び止めた。初めて見るゆうきゅんの顔だ。そんな顔もするんだなぁと朦朧とする意識の中でにやにやしていた。

「泰晴よろしく~!送り狼していいよ~」
「しねえわ」
「ゆうきゅん、ばいばい~」
「また来週な」

「はいはい~顔。顔。王子じゃなくなってるよ。」
「…。」
「さあ、飲もう。いろいろ話すよ~!はっはっは!」

 楽しそうな声が聞こえる。莉子とゆうきゅんとまだ飲んでいくんだ。

「泰晴、来てくれてありがとう。飲んで行かなくてよかったの?」
「…」
 返事をしない。表情が険しい。まだ怒ってるの?いつもよりきつく繋がれた手と泰晴の顔を交互に見つめた。