優秀な父と、優しい母。
両親は私のために尽くしてくれた。
私の健やかで、晴れやかな人生を作るために。私が人生に不満を持つことが無いように。

私がピアノを習いたいと言えば有名なピアノレッスンを受けさせてくれたし、
その1週間後に飽きてバイオリンをやりたいと言えば「せっかく高い授業料を払っているのに無駄にするな」なんて怒ることなく、バイオリンのレッスンを入れてくれた。
他にもお料理教室やスポーツレッスンなど数え切れないほどやってきたが、私がすぐ飽きてしまいどれも長く続かなかった。
だけど両親は一度も怒ることはなかった。寧ろ私のことを「好奇心旺盛でいいじゃないか」と褒めてくれた。

お小遣いも周りの子に比べたら圧倒的に多かったし、自分で言うのもなんだがお金持ちの部類に自分はいたんだと思う。
現代風に言うなら、『ハイスペックな家庭』だろうか。

しかし私はそんな甘い親に漬け込んでグレたり、反抗することはなかったし、
周りの友達に見せつけるようにして馬鹿にすることもなかった。
だってどの家庭が1番良いとか、そんなの人の基準で変わるもの。

その為嫉妬で虐められるなんてことなく、私は普通になんてことなく高校まで進級することができた。

しかし。

ある時から不満が生まれるようになっていた。それも、自分にはなくて周りが持っているものへの羨望と嫉妬からである。自分がそんな風に思い始めるなんて醜くて有り得ないと思った。いや、信じたくなかった。
思春期だから思いつめやすい、そう考えることにしていた。
だってその不満は単に恋がしたかっただけなのだから。
友達はみんな彼氏がいたし、羨ましかった。
私も好きな人がいないわけではない。
「告っちゃえよ」「言わないと伝わらないよ〜」なんて言われたが自ら告白する気は無かった。
なぜなら自分から好きとは言いたくなくて、相手からの好意が欲しかった。
相手が好きならこちらだって「嫌われないかな」なんて不安なく好意を伝えられる。
告白される、が理想だったのだが、相手はそんなことおかまいなしに他の人と付き合っていった。

そのうち諦めて高校生活に彼氏ができることなく大学に進学した。
しかし、環境が変わったところでその不満はますます大きくなっていった。

もう限界だ。そう思って日々を恋愛重視で過ごした。
告白されたい。その思いはずっと変わらなかった。
あらゆる男性に目星を付けては色目を使い、連絡先交換、男女グループでの遊びには抜かりなく力を入れた。

そうして大学四年目の卒業間近、一人の男性が夢を叶えてくれた。
飛悠(ひゆう)だった。

たまたま同じ帰り道でその時に告白された。
とても嬉しかった。長い時間をかけて良かったと跳んで喜んだ。