あなたにとって、人生最後の恋をしてしまった。
 
 コンビニで君を見かけて、一目惚れをしたのだ。
 まさか、自分が安直に人を好きになるなんて思ってもしなかった。
 でも、そんなことがどうでもいいと思えてしまうぐらい、君は魅力的な人間だった。
 目鼻立ちのはっきりした顔は、僕の好みの容貌だった。
 
 その日から、僕は君のことばかり考えるようになった。
 どこで何をしていても、君のことばかり。
 
 君と出会ったコンビニに一日何回も行くようにして、また君と出会えることを望んだ。
 しかし、君と出会うことはなかった。
 あれは、奇跡の出会いなのか。もう二度と君と出会えないのか。そう思うと、胸がはちきれそうになった。
 
 最後の一回。そう決めて、コンビニに行く。雑誌コーナーで立ち読みして時間を潰す。
 店員はおにぎりの交換をしており、立ち読みが注意されることはなかった。
 あと数分で出ようとしたところで、君が店に入ってきた。
 僕は持っていた雑誌を落としそうになった。心臓の鼓動も高まる。
 君は食パンと牛乳を買って、店を出た。
 
 僕は、君の後をつけた。直情的な行動だった。
 足が勝手に動いている状況だった。君の足取りは決して早いと言えず、後をつけること自体は難しくなかった。
 そのまま、最後まで気付かれることなく、君の住んでいるアパートまで尾行することができた。
 君は、そのまま一階の奥の部屋へと入っていった。番号は「104号室」。

 その日から、仕事へ向かうときと、仕事からの帰り道に君のアパートの前を通ることが日課となった。
 明かりがついていれば、君が部屋の中にいることがわかる。それだけで、心がときめいた。
 だけど、少し帰りが遅くなると、明かりが消えていた。君のような人が、夜に出歩くわけがない。寝ているのか。
 何かあるんじゃないかと、不安になる。
 そんなときは、次の日に、新聞ポストを見る。しっかりと新聞が抜かれていることを確かめるとホッとする。
 
 仕事からの帰り道。僕はいつも通り、君が住むアパートの前を通る。
 !
 僕は正面に広がる光景に驚いた。こんな時間なのに、君が出歩いているではないか!
 ふしだらだ。そして、危ないじゃないか。
 何かあったら、どうするんだ。
 僕は、声をかけずにはいられなかった。
「あの」
 君は振り返らない。
「あの!」
 もう一度声をかけえると、君はゆっくり振り向いた。
「危ないじゃないか! 何かあったらどうするんだ」
「え、なんですか?」
「危ないだろ! さあ、家に戻るんだ」
 僕は君の細い腕を引っ張り、家に戻そうとする。
「や、やめて! だれか助けて!」
 僕は焦って、さらに力を入れて引っ張る。
 すると、君はそれにつられてそのまま倒れ始めた。
「あ」
 顔面から地面に着地し、彼女はそのまま動かなくなった。
 君を守るためなのに。君を守りたいだけなのに。
 
『XX新聞』
 ●月◎日午後八時三十分ごろ、F県E市の路上で、同市在住の会社員・田中栄彦容疑者(25)が同市在住の松岡トメさん(81)を転倒させ、負傷させたとして現行犯逮捕された。松岡さんは頬骨を骨折する重傷を負った。警察によると田中容疑者は「あの人にとって人生最後の恋。僕が守らないといけない」と供述している。