どこまでも果てしなく広がる、青々と光る高い空を体育館の中から見つめる。世界中の人の頭上に果てしなく広がる空に夢や希望を映す人が世の中にどれぐらいいるのだろう。

夢を持て。愛を大切に。負けるな。踏ん張れ頑張れ戦え正義を貫け友情は宝物だ。

全てが嘘くさく聞こえる。小さい時は持っている素直さは、時間と共に大人の手により摘まれていく。そして摘み取った素直さの花を大人は正義として正論を言っていくのだ。

息を大きく吸い込んで、空を見上げる。偉そうだな。そして1つ大きなため息を吐いた。僕が生まれた場所は埼玉県の山奥で、僕は魔法使いでなければ美人の幼馴染がいるわけでもない。空を飛ぶための羽もなければ、運動神経も成績もつまらないほど普通だ。何もない空っぽ。何も持っていない僕は、何も持たない大人になる。このままなんだ。一生。

自宅から近くのコンビニまでは車で30分かかる。小学のときのクラスメイトは8名だった。中学に上がって16名に増えた。

どこを見ても山しかないこの景色を見て、大自然で羨ましいという人を時々見る。本当にそうなのだろうか。

僕は、小さな頃から諦めることを学んできた。手に届かないものがあまりにも多く、与えられた選択肢はわずかだった。例えば、中学の部活動1つ選ぶにしても、女子はソフトテニス部で男子は卓球だ。なぜソフトテニスと卓球かというと、サッカーや野球のように大人数を必要としないから。サッカーや野球すら知らない僕は、社会というものを他の人よりも知らないのだろうろ。


高校進学を決めるのも簡単だった。通える高校となると自然と選択は狭まる。決断に悩まないのは、田舎の利点だ。そのまま、電車で30分で着く高校に大半の中学の友達と進学をした。

そんな、僕は選択肢を多く所持してる奴らからしたら悩まなくて済むお気楽な奴だと思われてるのかも知らない。でも、実際そうなのだろう。反論のしようがない。

そんな僕も平和に安全に高校3年生の1学期の終業式を迎えることができた。明日から何もない夏休みにはいる。
「君たちの可能性は無限大にある。この夏休みは、無駄にしないようにすごしましょう。」
体育館のステージに立つ校長が、毎回同じような話を繰り返している。

熱中症対策に全開にされた窓から風がするりと僕の体をするりと通り抜ける。制服のズボンが短くなってきた。時間だけが着々と進んでいく。