山本はひぃひぃ笑ったあとで、ふと俺を見た。


何だよその目。
じとっとした目が、呆れ返るような表情と共に俺に向けられている。


「時間はあっという間に過ぎるし、後悔っていうのはいつも後からだよ?」


「余計なお世話……って、やば。俺行くわ!」


プリントを抱えて、廊下を走る。

次の授業ってなんだったっけ?


ひらりと、藍田さんのプリントが宙を舞う。


……あ。


なんでこんなところに水道があるかなぁ……。



風に乗って水道の水受けにちょうど落っこちたプリントを拾い上げる。


……やば。
びちょびちょだ。



摘まみ上げる紙から、ぴちゃんと雫が滴り落ちた。


「……あ」


その一声で、なんで俺は誰の声なのか認識できるんだろう。



「ごめん、落とした」



化学の教科書を手元に抱えるのはきっとあの子。


顔をしっかり見たわけでもないのに彼女だと確信しながら俺は謝る。


ほらね、藍田さんだ。