だってそこには、こっちに大きく手をふっている藤堂花さんがいるんだから。


すっごい満面の笑み……藤堂さん。


「何?」

「あのね……!」


駆け寄ってきた藤堂さんはいつものクールな感じがあまりなくて、むしろ無邪気に見えて、正直すごく意外で。


でも灰野くんは当たり前みたいにそんな彼女に向かい合っている。


「これ見て……!」


ずいっと差し出しているのは、CD。

あ、この歌手の名前見覚えある。

前に藤堂さんが灰野くんに返していたアーティストのものだ。


「……え、サイン入りじゃん。どうやって手に入れたの?」


「五時間並んだの」


「五……!まじかよ。一人で?」

「うん……まぁ」

「っ、あはは。やっば……っ」


え……?

灰野くんがお腹を抱えて笑っている。


あたしはこんな笑い方をさせたことはないし、教室でだってあまり見ない。


「仕方ないでしょ。伊吹がいないんだから」

「友達いないのかよ」

「こんなのに付き合ってくれるひとはいない」

「ぼっちだなぁ」


なにこれ、灰野くんが……すっごく、素。