その日の放課後。
へんなあだ名ブームが過ぎ去ったクラスにほっとため息をついたら、
「藍田さん、ちょっといい?」
そう言われて、あたしはドキドキしながら振り返った。
「なに?」
灰野くん。
「あの……あれから部屋の机とか片付けてて」
「あ、う、うん」
「アレは捨てたから」
「はい……っ」
も、もう、そんな話するの恥ずかしいよ。
変なとこで律儀だよ、灰野くんは。
「でね、机ん中から出てきたんだけど」
すっと差し出されたのは、ピンク色の小さな袋。
それに茶色のリボンが結ばれていて、正面に貼られたハートのシールには ” WHITEDAY ”って書いてある。
「え?」
「中1の時、ホワイトデーのお返し渡せなかったじゃん。でも俺これめちゃくちゃ恥を忍んで買ってたから……よかったら。すげーイマサラなんだけど」
「くれる、の?」
「うん……」
「ありがとう……っ!」
手のひらに乗ったピンクの袋を見つめるだけで幸せ……。
「あの時は本当にごめん」
ううん、違う。首をぶんぶんと横に振った。
……謝るのはあたし。
ホワイトデーにキスしたいなんて友達と騒いで、灰野くんは叶えようとしてくれたのに。
あんなキス寸前のタイミングで笑っちゃったあたしが全部悪い。
「……開けてもいい?」
「うん……、でも中一の時のセンスだから。気に入らなかったら捨てて」
もう、なんで灰野くんってそんな自信ないんだろう。
灰野くんがくれるなら何でも嬉しいのに。
袋をあけると、奥に入っていたのは。
「えー……かわいいっ!」
パステルブルーのリボンにパールがついてるヘアゴム。
爽やかで可愛い。
こういうの持ってなかったから嬉しい。
「いっぱいつけるね……っ。嬉しい……」
「あ、そ……よかった」
照れ臭そうに視線をずらす灰野くん。あたしは下ろしていた髪をこのヘアゴムで一つにくくった。
「へへへ……」
嬉しくってもうずっと笑ってるだらしないあたしに。
「あ……似合う」
灰野くんは容赦なくあたしのにやけを増やした。
そんな時。



