最寄り駅について、スマホの通話ボタンをタップする。


呼び出し音を聞きながら全力で走った。


『も、もしもしっ』


藍田さんの上ずった声。当たり前だ。


電話するのなんて4年ぶりだから。



「藍田さん、いまどこにいる?」


『家だけど今からお見舞いにいこうかと……』



ナギんとこ?



「……行かないで!」


『え?』


「ちょっと待ってて、家にいて」


『なんで?でも、わかった。いるね?』


「ありがと」


息が切れる。駅からの10分、並木をかけ抜ける。


閑散とした幼稚園の園庭を横目に走る。


たんぽぽ幼稚園。昔のままの看板だ。


幼稚園の頃藍田さんを「くうみちゃん」と呼んで、「く・る・み!」と怒られてバッチリ傷ついた俺は名前を呼べなくなった。


それからずっと、藍田さん。


小学校では一回も同じクラスにならなかったけど、たまに見かけると「藍田さんだ」っていつも思った。


その意味もよくわからなかったけど。