何で覚えてねーんだよ。


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クラスのあちこちどころか学年規模で「彼女とキスできた?」と笑われたあの頃。


藍田さんは廊下の隅とか、階段、踊り場、そのあたりで、しょっちゅうナギと話していた。



それを見るたびにもやもやした。


友達ってそこまで仲良くする必要あるの?


俺より距離、ずっと近いじゃん。


って、嫉妬ばっかりしてた。


その日も偶然二人きりで話している藍田さんとナギを見つけて、どうしても気になって、思わず身を隠した。


『で、胡桃はあれから灰野とキスできたの?』


『してない』


『へぇ。つーか正直、屋上のあの時……がっかりしただろ?』


血の気が引いた、あの質問。


それに藍田さんは、なにかを少し話してから、はっきりこう答えた。



『灰野くんには、がっかりした』


『だろうなぁ。だって、胡桃はあの漫画、なんていったっけ?”僕壊”みたいな恋が理想なんだもんなぁ。実際、灰野はどう?』


『……全然違う』


その漫画、なに。

理想と、俺は全然違うんだ……。