授業はとっくに始まってる。
でも行きたくない。

だから教室とは反対に位置する特別棟の廊下をとぼとぼと歩くことにした。


すると、声が聞こえてきて、



「なんでなんかな……花の時はあんなにうまくいったのに」



これって、灰野くんの声だ……。
空き教室の方から聞こえる。灰野くんもサボったんだ。


そのドアに貼りつくみたいに立って、あたしは耳を澄ませた。


「相性のせいじゃね?」


一緒にいるのは山本君だ。


「相性ねぇ。それは、俺と藍田さんには皆無のやつだな」


ケロッと答える灰野くんは、ふっと笑い声を零した。


おもしろいの?それ。
灰野くん、あたし全然面白く思えない……。



「伊吹はこのままでいいの?」


「いーよ。つかもう、どうにもなんない。どうせ”何もなかった”とか言われるし」


「あーそれは誤解だって」


「誤解って何。もういいって、やめよ!この話。腹減ったしコンビニ行こーぜ」


「それは堂々とさぼりすぎだろ」


そう言いながら、本当にコンビニに行くのかな。


けだるそうな灰野くんが、伏目気味にこっちに歩いてくる。


どうしよ、隠れなきゃ……!


慌ててきょろきょろとしているうちに、「あ」と山本君の声が聞こえた。



「どうした山も……と」


灰野くんがあたしを認識して固まる。


心臓がバクバクと動いて、涙腺がさらに緩む。


「……」


灰野くんはあたしからふいっと目をそらして、通り過ぎていく。



中一のあの時と一緒。


” 他人 ”が始まったあの時と……

同じ十数年をあたしたちは……、



「嫌だ!!」


あたしは灰野くんの片手を掴んだ。


振り払われても払えないくらいぎゅっと強く。



「そんなに……っ、あたしのこときらい?」


涙を流しながら、灰野くんに問う。


嫌いって言われたら、どうするか答えももっていないのに。