「どうした?灰野のこと?」

「うん。ナギちゃんは最近どう?好きな人とうまくいってる?」

「全然?」

「お互い辛い恋だねぇ」

「まぁいいけどね。楽しいし」


ナギちゃんは明るい。


いつもからっとしていて大らかでいいなぁ。人生楽しそう。


ナギちゃんの好きな子には、好きな人がいるけど。


「欲しくならないの?」


あたしは、灰野くんが欲しいけど。


「んー、どうかなぁ」


とナギちゃんはグラウンドを見やる。遠い目をしたまま、


「俺は付き合いたいっていうよりは一番近くにいたい。それが彼氏って立場じゃなくてもいいかな」


名言みたいな言葉を言い放つ。
ナギちゃんの片思いする相手への愛情の深さは、あたしはよく知っている。


自己犠牲の上にある恋。

彼は、好きな人が好きな人と付き合うのを応援しているんだから。


「ナギちゃんの好きな人、こういうところにちょっとは気付いたらいいのに」


「あー気づかないよ。最高に鈍感だから」


「告白してみたら?」


「好きって?いわねーよ」

言っても無駄じゃん、って。
言う前から諦めなくてもいいのに。


「じゃあナギちゃんの気持ちはどこにいくの?」


「胡桃が俺の”一番近く”にいて聞いてくれてれば、それでいい」


「そっか。わかった」


大事な使命だ。


ふっ、と隣で笑う彼は、あたしの髪をぐちゃぐちゃにかき回して席についた。