君のこと、教えて

糸side

半年前

彼を初めて見たのは
いつも利用しない駅の中にあった本屋さんだった。

季節も春になって
一年生から二年生になる四月。

本が好きなお兄ちゃんに頼まれて好きな作家さんの新作を買いに来た。
私も好きな作家さんの新作が出ていたのを知っていたから
一緒に買おうと思っていた。

家の近く
最寄りの本屋さんにはまだなくて、春休みで時間もあったから隣駅まで足を伸ばした。

お兄ちゃんからお願いされていた新作を手にとってそのまま、なんとなく文庫本コーナーをうろうろしていた。

ライトノベルから、SFにエッセイ

いろんなジャンルの本を手にとってはパラパラとめくり元に戻す。
そんな繰り返しをしていたとき、
日本文学コーナーの一角。
そこだけまるで違う世界かのような
凛とした空気が漂っていた。
姿勢を崩さず、まっすぐに本に目を向けていた彼を見つけた。

目が離せなかった。
あの時の気持ちは今でもはっきり覚えている。

彼がそっと置いた本を手にとった。

この本を読んだら彼を知ることが出来そうな気がしてずっと、何回も読んでいる。

ブックカバーを外すのはどうしてもできていないけれど、
何回と呼んだ文庫本はページの端が痛み始めている。

新学期が始まり
まさか彼と会えるとは思わなかった。

その電車に乗ったのは偶然。

学校に宿題を忘れてしまい、朝一番にいこうと乗った電車だった。
ほんとうなら、もう少し遅い電車でいつも通学していた。

彼に会って、
それからずっとその電車に乗っている。