君のこと、教えて

邑生side

「名前も知らないんだろ、その子」

自分の前の席に座っている恒星がつぶやく。

「まぁ。」

「学年1の秀才も恋愛では、恋の方程式は解けないか~」
ケラケラと楽しそうに笑う恒星に一瞬イラっとする。

小学校から腐れ縁の恒星とは、お互いのことも何でも知ってて
気兼ねなく話できる友達だ。
毎朝、電車で会う彼女のことも、話しているからこうしていつもネタにされている。

男子校だから
こういう恋愛ネタにはつい関心が多くなるのも無理はない。
自分はそこまで恋愛とか関心はなかったけれど
彼女だけは特別だった。

「何もしらないわけじゃない。
s高っていうのはわかってる。」

恒星の前に付き合っていた彼女と同じ制服だった。
一つ先の駅にあるs高。

県内公立ではトップ3に入る高校。

しかし、、と恒星は身を乗り出して
「お前も健気だなあ、もう半年だろ?会ってから。
電車で初めてあって、それから毎日会っているんだから、声かけてもいいのに。」

「相手は僕のこと知らないかもしれないし。
いきなり声かけたら怪しい人になる。それに、、」

それに?
と続けてきた恒星に、なんでもないと返事したとき、ちょうど担任が教室に入ってきた。

恒星は姿勢を戻して前を向く。

窓際の自分の座席に光が降り注ぐ。

それに、電車であったのが初めてではないんだ。

そう、つぶやく声は担任の元気のいい声に打ち消された。